クラシック音楽のコンサート・イベントの企画運営・録画録音

森下 唯 ピアノ・リサイタル 彼自身によるプログラム・ノート

すべての長調による12の練習曲 作品35 第3, 8, 7番
 この練習曲集は、伝説的な『すべての短調による12の練習曲』より明らかに小ぶりではあるが、技巧と音楽性の両立という面でハッとさせられるような曲がいくつも含まれている。第3番は、右手と左手で同じ音型を練習する、といういかにも練習曲的なつくりを逆手に取り、右手と左手の役割が反転するのと同時に音楽的内容も反転してしまうという劇的な構成。第8番は片手ずつの練習をまるで男女の歌のように見立て、最後にデュエットで愛を歌うという情熱的な内容に仕上げている。これらはまさに発想の勝利といった趣。第7番「隣村の火事」はバラードの戯画化のような音楽で、牧歌的な村が火事に襲われ、消防隊の奮闘でそれが消し止められるまでを描写的に描く。人知れず出火する場面で、まるで映画のカット割りのように牧歌的な描写と不穏な描写が幾度も切り替わるところなど、アルカンの想像力がいかに柔軟で時代の先を行っていたかを思い知らされる。

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