クラシック音楽のコンサート・イベントの企画運営・録画録音

Francesco Libetta Piano Recital 彼自身によるプログラム・ノート



 王子フランチェスコ・ダヴァロス(1930- 作曲家カルロ・ジェズアルドの不幸な妻マリア・ダヴァロスの末裔)は、今日もナポリの中心にある15世紀に建てられた古い宮殿に住んでいます。彼はアヴァンギャルド様式の音楽(2つのグランド・オペラ、室内楽、交響曲)を書いていますが、同時に19世紀に流行していたヨーロッパの様式によるピアノ独奏曲を多く残しました。まるで、ボルヘスの小説の主人公ピエール・メナールのようじゃありませんか?(訳注:ホルヘ・ルイス・ボルヘスの「『ドン・キホーテ』の著者ピエール・メナール」は、比較論文の形をとったドン・キホ-テのパロディ小説。20世紀の作家メナールは17世紀のセルバンテスになりきり、一字一句違わない『ドン・キホーテ』の再現を試みるという設定で、作品中にはセルバンテスの『ドン・キホーテ』も全て引用されている。)自叙伝の中で彼はこのような試みを行った理由を説明しています。本日は、いかにもロベルト・シューマンが書いたであろうと思わせるような短い曲”アルバムの一葉”をご紹介いたします。


カゼルラ(1883-1947)は19世紀のパリから吹いてくる近代化の風を表現しました。彼の”トッカータ”は若い頃の作品ですが、その後まもなく流行するグロテスクな表現、当時すでに流行しつつあった、工場のモーターさながらの際限のない16分音符の連続などを乱用したりはしませんでした。和声の調和、のびやかなメロディーをバランスよく保つことが、彼の求める音楽の様式だといえます。

 プログラム中で最も新しい曲は、数年前に流行したシチリアのシンガーソングライター、フランコ・バッティアート(1945-)の歌をピアノ用に編曲したものです。彼は中東、アヴァンギャルド、古代の音楽の要素なども取りいれる非常に実験的な音楽家で、現代音楽家として特別な地位を得ています。”ラ・クーラ”(人や物を思いやる事:「守ってあげたい」)は年老いた哲学者マンリオ・ズガランブロの詩を用いています。しかしたとえ彼の美しい言葉なかったとしても、バッティアートの音楽は十分に私たちの心に訴えかけてくるでしょう。
(訳・福崎芳枝、梅田紅子、木下淳)

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