jk_arts_logo_v_n_72ppi.pngクラシック音楽のコンサート・イベントの企画運営・録画録音

森下 唯 ピアノ・リサイタル 彼自身によるプログラム・ノート

歌曲集 第5巻 作品70
 アルカンは歌曲集と題した6曲からなる小品集を5つ残している。興味深いのは、5巻とも調性的に同一の構成(ホ長調、イ短調、イ長調、イ長調、嬰ヘ短調、ト短調)を持ち、終曲が必ず舟歌であるという点。これらはまったく同じ特徴を持つメンデルスゾーンの『無言歌集』第1巻への明確なオマージュである。なぜ15年もの長きにわたって執拗に同じ構成の曲集を書き続けたのか、その真意は今となっては知る由もないが、『無言歌集』第1巻に大きな感銘を受けたのだろうこと、そしてその先に何かを見つけようとしていたことは確かである。
 最終巻である第5巻はアルカン晩年の最後の輝きと言っても過言ではないだろう。第1曲はまるでフォーレの曲のようにやわらかく近代的。第2曲は右手と左手のちぐはぐなリズムが複雑な後味を残す。第3曲、怪しくもコミカルなリズムと技巧的なピアニズムの爆発。第4曲、ピアノという楽器が歌を歌ったら、という美しい幻想。第5曲、アルカンの得意分野である「スケルツォ」と「合唱的スタイル」の融合。
 そして5曲の断片が繋ぎあわされた「回顧」が思い出をなぞるように置かれ、「悲しげなアンダンテで」と指示された終曲の舟歌に続く。5つの歌曲集のすべての舟歌の中でも最も美しく胸に迫るもので、疲れと諦念、そして慰めと安らぎが描かれ、人生という旅の終着点を感じさせる。「回顧」の存在も含め、まるでアルカンが自らの作曲家人生を振り返り、その終わりを直視しながら書いた遺言のようにも思えてくるのである。

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