今秋のコンサートに対する私の想い

今回の一連の演奏会に対する私の想いは煎じ詰めると

・アルカンの音楽の面白さや多彩さを
・中世から現代までのイタリア音楽の流れを
・リベッタ、マルテンポ、森下唯という個性的なピアニストを

なるべく多くの方々に伝えたい。
そしてそれによってその方々の音楽ライフがさらに充実しますように・・・

という点に尽きます。

以下、長文となりますが、想うところを述べますと・・・・・

今回の一連のコンサート、発端は1997年のマルク=アンドレ・アムラン(右写真)の招聘にまで遡りま知られざる作品、特に極端に難しいために敬遠され気味の作品を続々と録音していた彼を、大学の先輩・後輩と協力して日本に迎えたわけですが、二度のリサイタルが満席となり、私の24年半にわたるサラリーマン生活の中での一番の成功体験だったのです(本業でなかったにもかかわらず!)。私が企画したコンサートで多くの方々が喜ぶ姿を見たい・・・それがコンサート企画を本業の柱にした理由です。

さて起業第一弾の企画として何にフォーカスするか・・・それを「アルカン」左下)にしました。今年、フランス生まれのアルカンもヴェルディやワーグナーと同様に生誕200年を迎えます。リストやショパンなどとも親交がありながら、後半生は引きこもりになり、残した作品の大半がピアノ曲なので、現代においては「知る人ぞ知る作曲家」の域を超えていません。

私自身は彼の音楽をもう30年近く愛好してきました。ピアノをオーケストラ風に扱う巨大な作品がある一方で、一分にも満たないシンプルで愛らしい小品もある。また当時としてはとても前衛的な作品もある・・・こうした彼の多面性に惹かれてきました。なのでこの作曲家が現状のままに終わるのは残念で、広く認知してもらうためには今年が一番いいタイミングだと考えておりました。幸いイタリア人の若手、マルテンポというアルカンに熱心なピアニストと知り合うことができ、彼がアルカンの最高傑作ともされる「すべての短調による12のエチュード」を全曲一晩で演奏することを快諾してくれたことで、この企画が動き始めました。この曲集はすでにCDでは何度となく聴いていますが、私が生演奏で聴いてみたい最たる作品なのです。

この作品、リストの「超絶技巧練習曲」と同様に12曲構成ですが、私が思うにリストのそれより「2倍長く、3倍難しく、4倍面白い」作品です。そうした作品ゆえ全曲演奏されることが稀で、約30年前に東京で全曲演奏されて以来となります。そしてこの日午後にはピアノを本業としないピアニストたちによるアルカン演奏会も開催しますので横浜みなとみらい小ホールは「アルカン一色」に染まるはずです

さらに彼と同時に森下唯にもリサイタルを依頼し「アルカンの全貌を一晩で理解するために最適なプログラム」を組んでもらいました。森下は優れたピアニストであるだけでなく、アルカンの楽譜を校訂して日本国内で出版するなど、日本における最も熱心なアルカン啓蒙者の一人です。すでにプログラムノートを公開しています(こちらからご覧ください)が、並々ならぬ決意と気合を感じます。

こうした演奏会は客観的には「マニアによるマニア向けのイベント」かもしれませんが、有名な作品が異なる演奏家によって演奏されることに加えて、知名度が低い曲が舞台上で紹介されること・広く知られることは、音楽文化の多様化を確保する意味で重要なはず、と信じております。

さらにすでに15年近い交流があるリベッタも招聘して、マルテンポとともに二台ピアノ版のベートーヴェン「第九」のコンサートを開催しますが、私の「"未体験音楽"をあなたに」という理念を理解してくれて、そのリベッタのリサイタル(10/29)も個性的なものとなりました。すべてイタリア人作曲家によるもの、しかも作曲年代が17世紀初頭から20世紀末までの約400年にわたるという、まさに「イタリア音楽史を概観する」と称してよい内容です。「ピアノ」が発明される前のレーオのアリアや、現存のシンガーソングライターであるバッティアート(右)の作品を自分で編曲して舞台に載せようという発想は、おそらく他のピアニストにはなく、作曲家・指揮者としても活躍している「彼ならでは」と言えましょう。

最後に・・・こうしたコンサートの企画において、収支を最優先に考えれば100~200人程度の小規模な場所で、好きな人を対象に多少高めのチケット価格で開催するものかもしれません。私のような個人経営事務所の場合なら、なおのことそうでしょう。しかしそれではアルカンもイタリア作品も、リベッタもマルテンポも森下も、「知る人ぞ知る」ままです。「一部の人たちだけで楽しんでてもつまらない」「なるべく多くの方々に聴いていただきたい」という気持ちから、500名規模の浜離宮朝日ホールなどを会場とし、チケットも一般的な価格に抑えたつもりでおります。ともかく一人でも多くの方に「新たな音楽との出会い」を喜んでいただきたい・・・お節介かもしれませんが、それが私の願いです。