ミケランジェロ・ロッシ(1601c.-1656)の”トッカータ”は神秘主義的表現と深く結びついています。トッカータ第7番の即興性の強い自由な構成は、ジローラモ・フレスコバルディの影響を受けていると思われます。この時代、デカルトの思想がまだ普及していないにもかかわらず、ロッシの用いた数学的表現はいかに先進的かつ高貴であったことでしょうか。曲の最終部の思いがけない半音階のスパイラルの連続は、ジェズアルドの手法を彷彿とさせます。
これに続く短い3つの曲は、かつてはとても有名であり、器楽的ピアノのスタイルが18世紀に徐々に形成されてきたことをよくあらわしています。マルティーニ神父(1706-1784)はボローニャ出身の優秀な教師で、モーツァルトに対位法を教えたことでも知られています。彼のソナタのフィナーレ(”ガヴォット”)はガヴォット風のテンポが指示されてはいますが、特に踊りのために書かれた音楽ではなく、非常に洗練された芸術作品といえるでしょう。パラディージ(1707-1791)の”トッカータ”における、本来の対位法のルールから解放されて自由に和声と音型が紡ぎだされていく様式は、ピアニスティックで華やかなものとなっています。トゥリーニ(1745-1829)の”プレスト”も同様で、ここではよりドラマティックでピアニスティックな表現が感じられます。
そして、ムツィオ・クレメンティ(1752-1832)によって、完成された形式のピアノ曲が生まれます。本日演奏する3楽章形式の短い”ピアノ・ソナタ”では、クレメンティらしいダイナミックで華やかな表現が効果的に使われています。その超絶技巧の天才的な処理は、彼がピアニストとしても脚光を浴びていたことを思い出させます。しかし、旅稼業のピアニスト(クレメンティ)との結婚を、婚約者の父親が許さなかったため、彼は演奏家としてのキャリアを断念し、その後、ピアノ製造及びピアノ音楽に関わる出版業者となりました。
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